技術紹介1:アスベストを検出するタンパク質
日本に於いては、2004年アスベスト使用がほぼ全面使用禁止になったものの、
未だ重大なリスクが存在します。すなわち、約4000万トンに及ぶアスベスト建材が古い建物の中に存在し、
今後これらの建物の解体のピークを迎えます。その際、アスベストの飛散がないかどうかを現場で調べなければ、
再び大きなアスベスト問題を引き起こす可能性があるとされています。現状の大気アスベスト検出の方法としては、
大気を濾過したフィルターを透明化し、位相差顕微鏡により観察する方法が用いられています。
しかし、この従来の方法は微細アスベストの検出ができない問題や、アスベスト、非アスベスト繊維の判定が難しい問題などを含みます。
特に幅0.25μm以下の微細アスベストが疫学的に危険であることが分かっているので、
電子顕微鏡による判定を一般化しようとする動きもありますが、
アスベストを捕集した後のフィルターの処理が煩雑である他、
繊維一本ずつをエネルギー分散型X線解析装置で分析していくのは、非常に時間と根気のいる作業であるので、
現場での観察法としては普及しておりません。
我々はタンパク質ライブラリーの中からアスベストに特異的に結合するものをスクリーニングしました。
見つかったタンパク質を蛍光物質で修飾することにより、アスベスト検出のためのバイオプローブを作製しました。
そしてこの蛍光プローブを用い、フィルター上のアスベストを蛍光顕微鏡でとらえる方法(バイオ蛍光法)を開発しました。
バイオ蛍光法では繊維が光って見えるため、電子顕微鏡を用いないと観察できない約30ナノメートル幅のアスベスト繊維でも、
低倍率で明瞭な像が観察できました(図1)。
フィルター上の広範囲を見渡すためには、この「低倍率」というのが実用的には非常に重要です。
広い視野でも電子顕微鏡なみの感度と位相差顕微鏡なみの手軽さで見えるため、
現場での「迅速簡易検出法」として利用できると考えられます。
アスベストの中には、蛇紋石系のアスベストであるクリソタイルとクロシドライトなど他5種類が含まれる角閃石系アスベストが存在します。
アスベスト結合タンパク質のDksAはクリソタイルに、GatZは角閃石系のアスベストに結合するので、
バイオ蛍光法では、蛍光色を使い分けることによって物性と形状両方を確認できる新たな方法となりました(図2)。
開発したバイオ蛍光法をキット化することに成功し、2010年6月環境省のアスベストモニタ
リングマニュアル(第4.0版)に掲載されました。