技術紹介2:タンパク質を並べる
現在の我が国は高度高齢化社会に直面し、それに伴う医療費の増大が大きな社会問題となっています。
増大する医療費の抑制及び国民のQOLの向上のためには、疾病を未然にあるいはごく初期の段階で
発見・診断し、予防医療を進めることが有効であると考えられます。
そのためには、疾病の診断に用いられる各種バイオマーカーを網羅的かつ迅速・高感度に測定する技術が
必要となります。また、医療費の抑制という観点から、多項目診断でありながら、
かつ安価な測定法であることが求められています。
シリコンの微細加工技術は、デバイスの高集積化による製造コストの削減を実現し、
安価なデバイス作製を可能としており、将来の多項目同時測定バイオセンサの基盤となりえます。
しかし、シリコンデバイスは電荷・屈折率などの物理的性質を高感度に検出するための
プラットフォームとしては非常に洗練されていますが、それ自体は「何がそこに存在しているか」という
物質認識機能を持ちません。バイオセンシング用途に利用するためには、半導体デバイス表面を
タンパク質で「修飾」し、特異的物質認識能を付加する必要があります。DNAチップなどに
代表されるように、DNAによる表面修飾は既に実用化の段階に達しています。しかし、
タンパク質チップはラボスケールでの報告が主であり、未だ実用化には至っていません。
この理由として、DNAはその塩基配列自体が特異的認識の役割を果たすため、その構造や安定性に
ついては通常問題とならないのに対し、タンパク質の機能・活性の発揮のためには、
そのアミノ酸配列に加え立体構造が重要な役割を果たすことが挙げられます。本来水溶液中に存在する
タンパク質にとって、固体表面への固定化は非常に大きなストレスであり、固体表面との相互作用に
伴う立体構造の変化によって変性・失活することが多いと言われています。また、固体表面上での
タンパク質の活性の発揮のためには、タンパク質の活性部位が溶液中の対象物質にアクセスできなけ
ればならないといった分子配向性の問題が生じます。また同時に、固体表面や近傍の分子による
立体障害も問題となっています。
弊社では、生体分子を固定化するための接着剤兼足場として、シリコン固体表面(シリコン酸化膜)に
結合するタンパク質を利用する方法を提唱しています。シリコンを材料としたバイオセンサ開発のために、
自然界に存在する多種多様なタンパク質群から、シリコン表面に結合するタンパク質を探索し、
シリコン結合タンパク質Si-tagを取得しました。これを用いて、任意のタンパク質をシリコンデバイス表面に
固定化する技術を提供しています。